コヒーレントX線を使った、レンズを必要としない顕微鏡
X線は0.1 nm程の波長をもつため、普通の光学顕微鏡では見ることができない200 nmよりも小さな構造も観察できます。また、X線は透過性に優れているため、電子顕微鏡では難しい、厚い試料の内部の観察に可能性が開けます。ところが、人体をも透過するX線は透過性が高すぎて、細胞などのミクロンサイズの試料をほとんど素通りしてしまいます。私たちの目で透明な空気を見ることが難しいように、X線にとって透明な細胞などを観察するためには、工夫が必要です。
透明な試料の観察で重要な役割を果たすのは、コヒーレントX線です。コヒーレントX線は、波(電磁波)の山や谷の位置がそろったX線で、これを利用した顕微鏡は、これまで見えなかった世界に光をともす技術として、世界的な注目を集めています。コヒーレントX線は大型放射光施設SPring-8など、最先端のX線源の登場により、近年になって利用できるようになりました。
図 X線回折顕微法によるヒト染色体の2次元および3次元での観察